516人が本棚に入れています
本棚に追加
「いい加減にしないか、織部。すみませんね、南さん。こいつは少しばかり口が悪いもんで。どうか気にしないで下さい」
気にする気にしない以前に不謹慎な言動をとらないよう前もって躾けておくべきじゃないのか。
と言うか、長谷川の存在を完全に忘れていた。
織部に対して諫めるようなことを言いながらも、そう言う長谷川も随分と長いこと傍観していたではないか。
おおかた織部に焚き付けさせて由汰の反応や出方を観察していたのだろう。
「僕は、後ろ暗いことなんて何一つとしてありませんよ」
極力大人な対応を心掛けたかったが、それでも言葉尻に不機嫌さが滲みでてしまったのか、長谷川が少し困ったような表情を浮かべる。
「我々は別にあなたを犯人だと断定しているわけではないんですよ」
それは驚きだ。織部は断定しているようにしか見えないが。
ふと何かが引っかかった。
自分はこの刑事たちに「南」だと名乗っただろうか――。
「僕の名前も素性も調べた上で、それでも断定しているわけではないと?」
「それはぁ」
バツが悪そうに長谷川が顔を顰める。
やおらやれやれと言いたげに長谷川は大きく息をついた。
最初のコメントを投稿しよう!