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「すみませんね。何がって聞かれると僕も思い出せなくて。でも確かに二人はここに来ましたよ。うちは専門書だけを扱っている書店ではありますけど、そのジャンルは多岐にわたるので学生や主婦層も多いんです。それに、ハーフの子なんてあまり見かけないですしね。それなりに覚えてますよ」
「それなりにな」
と、織部の含みのある言い方に眉を顰めながら由汰は作業する手を少しばかり乱暴に動かした。
「曖昧な言い方だな」
「お力になれず残念です」
と、素っ気なく返す。
正直、こんな時間に来られて迷惑じゃないと言えば嘘になる。
お腹だって空いていたし、愛想良く対応するにも今日はだいぶ体調が悪かったから。
中でも今が一日の中で最高に絶不調だ。全身がハードな水泳を終えたばかりのように重くて怠かった。
できることなら、このまましばらくしゃがみ込んで、床に――実際には土間だが――座っていたいくらいに。
そんな状況にも関わらずこちらが親切に対応していれば、この織部の態度ときたらなんなのか。
緊張していたのに少し気が抜けて、真面目に請け合う気も失せた。
「家出でもしたんですか? その子たち」
少しばかりイラッとして適当に思いついたことを口にする。
「ここに居ないとなれば、その線もでてくるだろうな」
言われた意味がすぐに理解できなくて、由汰はほんの数秒レジを締める手許を止めると、次の瞬間きつく眉を寄せた。
「どう言う意味だ?」
訝し気に刑事二人を睨むと、織部が皮肉げに口端を吊り上げる。
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