グリーン・アイ《前編》

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「僕は、ちなみに今まで生きてきたなかでそう感じたことはないんだけど」  なるべく織部を逆なでしないよう穏やかに訊いたつもりだったが、当然のように織部の反応は思わしくない。由汰の質問をどうとったらいいのか分らないようで、警戒するような色が三白眼の奥に見え隠れする。 「なぜそんなことを訊く」 「なぜってそれは……」  そう訊かれると正直自分でも分らない。  ただ、昨日の刺々しい織部の態度が気になったから、その訳を聞きたくて。  もごもごと言い淀んでいると、それを見かねたように口を開く。 「そう思うのはお前がいかに身軽かってことだ。一見、世の中が同性愛者に対して寛容になったように見えるだろうが、実際はまだまだえげつない。下手すりゃゲイってだけで社会的信用も出世の道も失うことになりかねないくらいにな。そればかりか、そいつ自身の人間性の評価もガタ落ちだ。不利どころか俺は恐ろしくてたまらないね。特に社会の中で責任ある立場にいるような奴らからしたらな」 「刑事とか?」  なんの含みもなく純粋に頭に浮かんだことを言っただけだったが、なぜだかその一言が織部の癇に障ったのが解った。  薄暗い中で、織部の目に怒りとも取れる苛立ちが滲む。     
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