グリーン・アイ《前編》

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グリーン・アイ《前編》

 最後の客に釣銭を渡しながら南由汰(みなみゆた)はチラッと壁に掛かった時計に視線を投げた。  と言うのも、二人の男が最後の客と入れ違いに入ってきたのは、閉店時間を十分も過ぎたころだったから。  レジの締め作業をしながら、もう店仕舞いなのだと由汰が言うより先に、慣れた手つきでバッチを提示される。  ――警視庁捜査一課。  どこか険しい顔の刑事たちは、挨拶もそこそこに二枚の証明写真を取り出すとそれを由汰の正面にかざした。 「実は今、人を探してましてね。失礼ですが、この少年たちに見覚えはありませんか?」  都内でも有名なインターナショナルスクールの制服を着た二人の少年の顔写真。  由汰は内心で眉を寄せた。  面倒なことは極力避けたい。それでいたって今日は朝からあまり体調が思わしくないのだ。 「……事件ですか?」 「いえ、詳しいことはまだなんとも申し上げられないんですがね」  浅黒い顔に感じの良い笑い皺を浮かべた背の低い中年太りの長谷川は、「こんな遅い時間にすみませんね」と付け加えながら外の初夏の陽気にやられたのか、じわっと滲んだ首筋の汗をハンカチで拭う。 「いえ、ちょうど店仕舞いするところだったので、大丈夫ですよ」     
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