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ある地方都市の服飾店内。時間は夜21時。
男が1人佇んでいる。他に店内に人はおらず、
後は戸締りをして店を後にするだけだ。
男は店内をぐるっと見渡す。
その店は、男の親が始めた婦人用服飾店で、
地域の住人には愛されてきたが、親も引退し彼もそろそろ潮時を感じていた。
最近はファストファッションの店が近くの大型スーパーに出店した事もあり、今日の売り上げも芳しくは無かった。
多分、もう店は締めて新しい人生を進まないといけない時期なのだろうと、男は気付いていた。
店の照明を落とす。
月明りが、大き目のショーウィンドウから漏れてきて、仄かに店内を薄暗く照らす。
店の中は数体のマネキンがあり、その何体かは闇の中に隠れてしまっていた。
だが、そのうちの一体に月明りが当たっており、キラキラと煌めいているように見える。
引き寄せられるように、男はそのマネキンに近づいた。
若い女性の服に身を包んだそのマネキンは月明りに照らされて、まるで生きている人間の女性の様に見える。
明らかにいつものマネキンの質感ではない。肌も少し上気しているように赤みがある。
(そんなバカな)男は一度強く目を瞑りゆっくりと開けてみる。
だが、ますますそのマネキンからは、立ち昇る人間の気配を感じる。
思わずマネキンの手に触れてみると、微かな体温を感じたような気がする。
まさかと思い、グッと手に力を込めてみる。すると確かな弾力が指先に返ってくる。
マネキンの顔を凝視する。
いつものマネキンのハズが今日は魔法がかかった様に、その潤んだ瞳と目が合う。
そのまま、吸い寄せられるように彼女の頬に指を這わせてみる。
マネキンは男から視線を外すと、もう一度窓の外を見つめなおすが、明らかに男の指の行方を意識しており、軽く呼吸のリズムを乱していた。
男は指先を頬から、唇に移動させる。最初、彼女は唇に力を込めて、指先の侵入に抵抗する素振りを見せていたが、少し男がチカラを入れると、すぐにその指先は彼女の口の中に滑り込んだ。
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