第1章 雨染まる夏の出逢い

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人混みの駅に電車が差し掛かる頃、これでもかと思うほどに押しかかる人盛りの中に俺はいた。 雨に彩られた都会の景色はまるで全く違うもののように思える。 その雨の音は人の声によってかきけされる。 俺はいつものように駅を出て、高校に向かう。 駅から少し歩いたところに位置している高校へは数十分で行ける。 いつもと何も変わりやしない、道を変わらず歩く。 ふと、冷たい甘い匂いがしてうつむいていた顔をあげる。 目線の先には美しいスタイルの女性の人が歩いていた。 俺はその一瞬の間に、彼女に惚れたのだった。 彼女は近くのコンビニへと入っていった。 俺はそれを見送るとコンビニへと足を運んだ。 コンビニの自動ドアを抜けると、冷たいエアコンの風が俺を包み込む。 そのまま店内を一周するものの、彼女の姿は見当たらない。 俺は諦めて飲み物だけでも買っていこう、とレジに向かうとそこには先程の女性がいた。 俺は目を見開き、本当に先程の女性なのか、確認してみたがしっかりと記憶と一致した。 俺は彼女に震えそうな手つきで飲み物を差し出すと笑顔で「129円です」と言った。 彼女の声は透き通るような美しい、甘い声だった。 俺は支払いを済ますと、今にもふらつきそうな頼りない足取りで店を出た。 高校に着いても、彼女のことが頭に何度も浮かんだ。 耳を済ませば今にもあの声が聞こえてきそうなくらいだ。 そのまま俺は彼女のことを考えながら、授業を終えた。 「なあ、漣。どうしたんだ?」 俺の親友の孝雄からも心配されるほど、おかしくなってしまっているようだ。 「別に、何でもないけど」 俺はなるべく感情に出さないように答えた。 「さっきのが数学のじいさんだったからよかったけど、別の先生だったらヤバかったぞ」 「あ、ああ」 俺は曖昧に返答した。 その次の日も俺は同じコンビニに向かった。 予想通り、彼女は昨日と同じ時間帯にレジにいた。 俺はまた飲み物を買うとレジに向かった。 俺の胸の鼓動ははち切れそうなくらいだった。 飲み物を差し出すと、やはりあの笑顔とあの声で会計をしてくれた。 会計の途中、昨日のことを思い出したみたいで「また来てくれたんだね。ありがとう」と声をかけてくれた。 それからというもの、高校に行く前には必ずそのコンビニに寄るようになった。 五月の空はまるで空一面に蓋をされたかのように灰色に覆われていた。
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