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プロローグ ◆むかしむかし◆
ガシガシガシ。
アイナは今日も地面を掘り起こす。小さな手にスプーンを握り締めて。
地面は固く、幼い彼女の力と小さな木のスプーンではまるで歯が立たない。
それでもアイナは、めげずにその木の根元を掘り起こそうとしている。
ガシガシガシ。
丘の上に立つ大きな木。
その木のことを人々は『竜の木』と呼んでいた。
昔、この地を治めていた竜がいた。
立派な竜だった。
その竜が死ぬと、人々は死体を丘の上に埋葬した。やがて、その場所から木が芽吹き、いつしか大木に育った。そういい伝えられていた。
だから、『竜の木』のことは誰もが知っていた。
誰もがその木を大切にしていた。
アイナは竜を見たことがない。昔はたくさんいた竜もその数はどんどん減っていき、今ではその姿を見たことのある者はほとんどいない。アイナも村に伝わる絵巻物に描かれた絵でしか見たことがない。それも、年に一度の収穫祭の時に祭壇に飾られるのを目にするだけだ。
竜は人々の――彼女たちの守り神だった。
だからアイナは思った。
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