ストレス時代

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ストレス時代

「めぐみさん、最近太ったんじゃないですか?」 「わかる?」 「わかりますよ。顔がむくんでますもん」 「新しく来た課長がさ、私たち派遣に冷たくてさ」 「それで、やけ食いですか」  菜摘とめぐみがひそこそやっているところに、貿易会社にお勤めの杉田さんが入って来られました。 「お前達、がんくび揃えて何しゃべってんだ?」  二人の間に割って入った杉田さんに菜摘が、今のやり取りを話して教えました。  すると聞き終えた杉田さんがめぐみに、 「じゃあうちの会社へ来るか? 正社員で雇ってやるぞ。うちは給料いいぞ」 「本当ですか!」  めぐみはらんらんと目を輝かせました。  早速面接です。 「貿易事務の経験はあるのか?」 「ないですけど、コンピューターには強いです。MOSの資格も持ってます!」 「そんなのは普通だろう。英語は? TOEICは何点だ?」 「英語はちょっと…」  「何か強みはあるか?」 「強みって…?」 「FPとか、簿記とか秘書検定とかだよ」 「私、秘書は目指してないので…」  杉田さんは呆れ顔でめぐみを見ると、  「じゃあさ、おまえ、タクシーの上座はどこかわかるか?」  方向性を変えた質問をぶつけました。 「運転手さんの隣の助手席、ですか? 見晴らしがいいし…」 「バカか、おまえは。だからいつまでたっても派遣なんだよ!」  杉田さんは声を荒げました。 「いいか、上座はな運転手の真後ろなんだよ。何故かは自分で調べるとして秘書検定を持ってるとこうした常識が身につくんだよ。クライアントを車に乗せる時役立つんだよ」 「………」  めぐみは泣き出してしまいました。 「杉田さん、やり過ぎですよ。あれじゃあ公開面接ならぬ公開処刑ですよ」  表まで見送って釘をさしました。 「すまん、めぐみに謝っておいてくれ」  さすがに悪いと思ったのか、杉田さんはうなだれながら帰りました。  店に戻ると、 「あんな杉田さん、初めて見たわ。虫の居所が悪かったのかしら」  女性たちがめぐみを慰めていました。 「ストレスじゃないですか。内定していた部長のポストがボツになったそうですから」 「入り婿の割に出世しないですね」 「お取引先の方も同情してましたよ」    一億総ストレス時代とはよく言ったものです。  私もお店が暇でストレスです。
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