恩返し

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恩返し

 お世話になってい加地さんからご予約のお電話をいただきました。  加地さんは電気工事会社の営業本部にお勤めです。 「今回はプライベートで利用させていただきます。故郷の同級生が上京して来るんですが、銀座に連れて行けとうるさくて」  東京で開催される『地域活性セミナー』に見えるのだそうです。 「そうですか、一生懸命やらせていただきます」  翌日、同級生お二人を伴って見えました。   ひょろりと背の高い方は、タクシー会社の跡取りで、少し前まで加地さんのおとうさまが運転手をされていたそうです。  小柄な方は、県内に何店舗もあるスーパーの御曹司で、今も加地さんのおかあさまが働かれているそうです。 「おい、加地、おまえすごい店知ってんな」 「鳥取とは段違いだよ。こんなきれいな人達、山陰にはいないもんな」  銀座は初めてだそうでお二人は大はしゃぎです。  ビールで乾杯された後、山崎の18年をお出ししました。 「うわっ、山崎だ。しかも18年!」 「山崎はもう手に入らないって聞いたけど、やっぱり銀座にはあるんだな」 「…こちらの山崎は本部長からです。大きな契約を結ばれたとかで、ごほうびだそうです」  作り話をでっち上げて加地さんを持ち上げました。  加地さんはどう対処していいものやら、歯がゆいお顔をされています。 「加地、おまえ、東京で頑張ってんな」 「故郷の誇りだよ」  同級生のリスペクトに加地さんは苦笑を浮かべるばかりです。  帰りには『ピエスモンテ』のマドレーヌを「銀座で一番人気の洋菓子です」と手渡し、宿泊先のホテルまでハイヤーも配しました。    翌日の夕方、加地さんが手土産を持って来られました。 「あそこまでしていただいて…ありがとうございます…親孝行ができました」  加地さんの会社は、従業員2千人以上を擁する業界のパイオニアですが、残念ながら一般には馴染みがありません。  地方はことさらでしょう。  しかしながら、近々に加地さんのご両親は鼻の高い思いをされる筈です。  加治さんはおごらず、誰に対しても寛容で、敬愛に値するすばらしい方です。  ご接待がある時はいの一番に当店を押して下さると聞き、いつかご恩返しをさせてもらいたいと思っていました。  お役に立てたようでしたらこちらこそありがたいです。  鶴だって恩返しするのですから、これからも何かありましたらご用命下さい。  
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