酒乱

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酒乱

 少し前にやめた女性の代わりに、黒田君が新しい女性を連れて来てくれました。  名前は恭子ちゃん、23歳です。  昼間はCADオペレーターという、機械図面を作成する仕事をしているそうです。    聡明さの中に哀愁も感じさせて、さすがは黒田君、ピンポイントです。    今日から働けると言うので、早速体験入店してもらいました。  時おり見える教育出版の営業マンが、大手塾の理事を接待されているのでそこについてもらうことにしました。 「今日から入店します恭子ちゃんです。よろしくお願いします」  理事は恭子ちゃんがタイプだったようで目を輝かせると、 「君、ここに来て」  隣にいた女性を立ち上がらせて、自分の横に座らせました。 「新人はいいなあ、ういういしくて。シャンパンで二人の出会いを祝おうか?」  理事はすっかりごきげんです。  当店は初めてですが、うまくいけばお客様になっていただけるかも…とほくそえんだ矢先です。 「すみません、私お酒ダメなんです。ウーロン茶にしてもらえませんか」  恭子ちゃんが、すまなさそうに理事に頼みました。   「いいから飲もう」 「本当にダメなんです」  すると理事は血相を変えて、 「おまえのためにシャンパンを抜くと言ってるんだ! 何がウーロン茶だ!」  恭子ちゃんを怒鳴り付けました。  その変貌ぶりに一同唖然です。 「まあまあ、君、一杯くらいなら大丈夫でしょう? ねっ?」  営業マンが慌てふためいて恭子ちゃんに目配せするも、時遅しです。 「酒も飲めないやつがこんなとこで働くんじゃないよ! 酒がダメなら触らせろ!」  むちゃぶりで恭子ちゃんの胸に手を伸ばします。  その手を恭子ちゃんがピシャリと払いのけました。 「銀座にも酒乱はいるんですね」  立ち上がると理事を一瞥して帰ってしまいました。  黒田君がやって来て、 「すいません、ママ!」  頭を下げます。 「あの子の父親、酒乱だそうで、客層のいい銀座ならと思って来たんだそうですよ」  長年銀座にいますが、酒乱のお客様は初めてです。  営業マンも理事をタクシーに乗せた後戻って来て、 「噂には聞いてましたけど、急に変貌するんですね。迷惑かけました」  謝って帰りました。  恭子ちゃんは不運でした。  よりによって最初のお客様が酒乱だったとは…。  あの理事、翌日は何も覚えていないそうでお気楽なものです。      
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