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少女は初めて、この世界に来てから、音を聞いた。 自らが発した、よく知る名前。 すると、銀色を持つ少年は初めて口元を緩め、優しく微笑んだ。 「聖凪(せいな)。ここは君の世界じゃない。待っている人たちがいるよ」 凛と澄んだ少年──聖の声が、少女──聖凪の耳に届いた。 「聖凪……?」 「君は聖凪。思い出して。君の近くにいた人を。君を大切に思っている人たちを。君が大切にしてきた人たちを」 「私を大切に……? 私が大切に……?」 聖凪はジッと、自分と同じ字を持つ聖の顔を見たまま、自分の頭の中をぐるぐるとかき混ぜ、いろいろなものを手繰り寄せた。 その瞬間、一気に聖凪の世界が、聖凪の記憶が蘇り、真っ白だった世界に不規則な色彩が入り始めた。 驚いて周囲に目をやった後、目の前の聖を見直すと、いつの間にかいたはずの銀色をした聖の姿はなかった。 握られていた手の感触だけを残して。
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