歌姫

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 と、ルゥが、僕のスカートの裾を引っ張って楽しそうに笑っている。僕、どうしたらいいの? 何か悪いことした?  「今朝だって、キョウはわたしのオハヨウのキスで目を覚ましたんだから」  いや、そんな覚えはありませんよ沙羅さん。  「ふん。キスくらい何よ。私は、いつもヴァーチャルキョウとあんなことやこんなことして愉しんでるんだから」  いや、だからそのヴァーチャルキョウって何なんですか? 梓さん。キャラ崩壊し過ぎでしょ。  「さあ、今日こそ、私とそこのビッチ、どっちをとるか決めてもらうわよ、キョウ!」と梓。  「誰がビッチですって!」  「あ、あのう……」  居た堪れず、僕は蚊の鳴くような声を出した。  「あなたが、はっきりしないのが悪いんだからね!」  二人の少女は同時に、僕に向かってそう叫んだ。  「紅顔の美少女一人の関心を求めて二人の少女がいがみ合う。人間の浅はかさここに極まれり。キョウ殿、拙者にお任せを。どちらか切って差し上げよう。なんなら二人とも。そして拙者と駆け落ちを。嗚呼、愛する者のためとはいえ、罪を犯したこの身と薄幸の美少女の旅は、人目を忍び……」  小次郎は刀の柄に手をかけて自分の世界に入り込んでいる。  いや、お前が一番物騒で面倒な問題だ。僕は小次郎を両手で押し留めた。     
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