track4: IN THE HOLE

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 別の人格が勝手に口を開いたような全く意図していない台詞に急に恥ずかしくなり、ユウコは咄嗟に顔を伏せたが、ケンジはユウコの申し出を理解してすぐにパッと嬉しそうな明るい笑顔を見せた。 「あ、ああ......! もちろんだよ!  機材に詳しい子なら助かるよ!」  ユウコはケンジのそんな優しい笑顔にホッとして肩の力を抜く。 「よろしくお願いします」と深々と頭を下げるとケンジは「そんなにかしこまらないでよ」と照れ臭そうに頭を掻いた。 「それで君、名前は?」 「ユウコです」  バンドの演奏が終了し観客の間から拍手が起こる。  ユウコは人懐っこい笑顔を向けるケンジの肩越しに、カウンターで一人グラスを傾けているセイイチの姿を見つめていた。
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