track1: SLOW DOWN

6/45
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/344ページ
 3分15秒  手元を誤ったギターが場違いな高音を発して演奏が途切れると、ほんの一瞬の間が空いたあと、若い男女の笑い声が聞こえてそこで収録が終了した。  "プー"という機械音がイヤホンから発せられて、時代遅れの古いデジタルプレイヤーが再生を停止する。  無惨にひび割れてしまっている液晶には「Notitle」の文字が表示されている以外何の情報もなく、バッテリー残量を示す電池のアイコンが絶えず点滅していた。  誰が歌っているのか、曲のタイトルすら解らない古い録音データに記録されている謎の才能。  この歌声の圧倒的な魅力に気圧されて、呼吸するのさえ忘れていたセイイチは息苦しさと気だるい高揚感が体の表面を揺蕩っているのを意識した。
/344ページ

最初のコメントを投稿しよう!