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「ーーさんっ…… セイイチさん!」
ふいに名前を呼ばれて我に帰るセイイチ。
耳に装着したカナル式のイヤホンを取り外すと店内の喧騒が唐突に雪崩れ込み現実に引き戻された。
「ああ、悪い。なに?」
「なに?
ぢゃないですよ、もぉー」
困ったように眉間をハの字に歪めて抗議の声を上げたKが、呆れた様子でカウンターに突っ伏す。
「セイイチさんのために無理言って何とかラインナップに捩じ込んで貰ったんですから、ちゃんと聞いてて下さいよぉー」
唇を尖らせてブツブツ文句を言いながら、Kはそのまま店の奥に位置する小さなステージに視線を向けた。
そこでは小柄な体には聊か不釣り合いな、大きなアコースティックギターを胸に抱えた若い女性が現代的なポップロックを歌っていた。
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