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「まだまだ発展途上の逸材ですよ。
路上で歌ってるのを見つけて声かけたんです」
新しい才能はいつも輝きに満ちていて、未知の可能性を感じさせてくれる。
そんな彼らを見出だし、未来への扉に手を掛けられるのはごく限られた人間だけで、歴史の一部になれることにセイイチとKは誇りを持っている。
ステージを見つめるKの横顔には、そんなまだ見ぬ未来への期待が顕れているようで、とても楽しそうで自慢げだった。
しかし録音データの歌声が未だ耳の奥に残るセイイチには、ステージから流れてくる音楽が聞こえていなかった。
現実世界に聞こえる音がどこか遠くから聞こえて来るもののように感じられて、自分一人だけが別の次元に居るようなそんな感覚にセイイチは囚われている。
氷が殆ど溶けてしまっている飲み残しのウィスキーのグラスを手に取り、その冷たさを指の表面で確認すると、白い紙の上に垂らしたインクが黒いシミを広げていくように、指先から徐々に現実世界へ引き戻されていくような気がした。
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