23人が本棚に入れています
本棚に追加
ようやくステージに意識が向いてきたセイイチはKが用意してくれた資料の存在を思いだして、カウンターに放置したままだった黒いファイルを手に取った。
フェイクレザーの分厚いバインダーに仰々しくファイリングされている割には大した内容はなく、彼女の写真と簡単なプロフィールが印刷されているA4用紙が一枚挟まっているだけだった。
名前はサエ。
父親がイギリス人で母親が日本人。
年齢は18歳とあるが、ステージに立つ彼女はそれよりもずっと幼く見える。
目元のほりが深く鼻筋が通り、瞳の色が少しグリーンがかっている。
一方でアジア人らしい肌の色と綺麗な黒髪がオリエンタルな雰囲気も漂わせていて、まだ幼いがほんの数年で美しい女性に成長するだろうと想像できる端正な顔だちをしていた。
プロフィールの最後に”帰国子女”と印字されている。
Kの話では日本にやってきて3年ほどで、日本語がまだ苦手らしいが、歌声を聞くかぎりではそれほど気にならなかった。
時折妙なイントネーションになることはあるが、それがかえっていい味を出していて、セイイチには可愛らしく感じられた。
最初のコメントを投稿しよう!