track10: アコースティックブルー

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 土井の紹介でユウコがステージに上がると、客席からパラパラと拍手が起こり、ステージに興味を引き戻された幾人かが再び席に着いた。  ユウコがステージに現れたのを見てセイイチは苛立っているのかホッとしているのか「ふぅ~」と大きく息を吐く。  マイクの高さや自分の立ち位置を何度も確認するユウコの仕草から緊張している様子が読み取れるものの、その眼にはどこか期待に胸を膨らませているようなウキウキした光が灯っているのも垣間見えた。  肩からはあの古いアコースティックギターが提げられている。 「なんだか素人くさい子が出てきたなー」  海老名がステージのユウコを見ながらそう言うとセイイチが「だからいいんじゃねぇか」と肩を小突いてそのままステージに向かった。  それを見てケンジが「おれもー!」と楽しげにその後を追う。  カウンターに一人取り残された形となった海老名は「えっ、なに?」と戸惑いながら、ステージに走っていく二人の背中を見送る。
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