track10: アコースティックブルー

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 土井が何故かまだステージの端にボーっと突っ立ているので、慌ててKがブースから片手を突き出して袖を引っ張った。  切れかけたゼンマイが回りだしたように、急に我に返ると、土井がようやくステージを下りて行き、演奏の準備が整った。  不思議な緊張感がステージ上の三人を包み込み、ステージに注目している観客達も彼らの動向をじっと見つめて、息を飲む音が聞こえてきそうなほど張りつめていた。  深く息をつきユウコが他の二人と目を合わせて合図する。  セイイチとケンジが各々頷いたのを確認してから、音響ブースで待機していたKに視線で合図を送るとステージを照らすライトが暗くなった。  二年ぶりのステージなのに不思議と心は落ち着き、肌の表面に残るライトの熱にユウコは懐かしい温かさを感じていた。  フレットに指を滑らせてアコースティックギターのスチール弦がキュッと小気味の良い音を立てるのを聞いて、またこの場所に戻ってきたんだと実感する。  導火線に火を点ける瞬間を店内の誰もが待ち望んでいるのを感じながら、最初のコードの形に軽くフレットを押さえると、心臓の鼓動を感じるほど指先が脈打っているのが解った。    胸の高鳴りをカウント代わりにして、ユウコがギターを奏で始める。     
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