track10: アコースティックブルー

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 イントロの終わりとともに美しく調和された楽器のハーモニーがほんの束の間のブレイクに心地よく響き、演奏に集中していたユウコが僅かな緊張感を滲ませながら真剣な眼差しを客席に向けると小さなブレスがマイクを通して伝わった。  --次の瞬間、空気と共鳴するような驚くほど透き通る美しい歌声が店内に響き渡る。  優しく繊細でいて力強いその圧倒的な歌声に観客の誰もが息を飲み、ステージ上の一人のシンガーの姿に釘付けになる。   聞き耳を立てながらも店員への注文に意識を向けていた客やそれに応対するスタッフ達、仲間と談笑していた客もステージに興味を失っていた客も皆、時間が止まったようにユウコの歌声に聞き入り、店内にいる人間全員が一様にその歌声の美しさに驚愕してユウコに注目した。  そしてそれはカウンターからただ何気なく彼らの演奏を聞いていただけの海老名も同じだった。
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