track10: アコースティックブルー

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 2コーラスが終了して録音データでは失われていた空白の部分に差し掛かると、突然エレキギターの轟音が鳴り響き3人が驚いて顔を上げた。   海老名が展示用のエレキギターを持ち出してバンドに加わり、力強い波動を放つ3人のグルーヴに更に迫力が加わった。  ロックバラードの緩やかなメロディーとユウコの歌声にうっとりと感動しながら肩を揺らしていた観客達が海老名の登場によって急に色めき立ち、弾かれたように歓声が上がる。  熱風が吹き付けるような圧力がステージ上に押し寄せ、圧縮されていた何かが破裂したような熱狂に店内が包まれた。  実現しなかったツアーのラストステージが、二年の時を経て今ここで幕が上がるーー  そんな感覚に捕らわれ、Mor:c;waraで行った何百というステージの記憶が蘇るセイイチ。  二年間表舞台から遠ざかっていたのに、楽器を持つ感覚はみんな身体に染み付いて離れないらしい。  あの頃と何も変わらない仲間達の姿と、何も変わらない音がそこにはあった。  そして目の前で観客達に叫び続けるユウコの背中を見て、その後ろ姿にTASKの影が重なるのをセイイチはハッキリと見た。  弟の亡霊に誓った、不可能だと思われた約束が遂に実現したのだとその瞬間確信したセイイチは、ずっと胸に抱えていた罪悪感が晴れていくのを感じた。     
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