track2:I still haven't found what I'm looking for

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 ほんの数年前のことなのに随分大昔のことみたいだな。とぼんやりしていると、最近は過去のことばかり思い出してはナーバスになっている自分に気が付いて慌てて頭を振った。  まだ残っている作業に集中しようと、気持ちを切り替えるセイイチ。  息抜きのために喫煙所へ向かおうとすると「煙草っスか?」とKも後からついてきた。   道すがら煙草の箱を探してポケットに手を入れると例のデジタルプレイヤーが指先に触れた。  取り出すつもりはなかったが、煙草の箱と一緒に出てきてしまい、セイイチは慌ててポケットの中に戻そうとする。 「別に隠さなくてもいいじゃないスか」  Kがセイイチの仕草に気づいて窘めると、セイイチは疲れたように「お前の言う通りだよ」と呟いた。 「今こうしていろんな人間が一緒に同じ目標に向かって走ってるっていうのに、俺はずっと過去を引き摺って生きてるんだ。  二年も前に録音されたデモだけを頼りにどこの誰かもわからない歌い手を探し出そうなんて馬鹿だよな......」  セイイチにしては珍しい弱気な発言にKが同情したのか「だけど、そのおかげでKANONさんを見いだせたんじゃないですか」とフォローした。  セイイチは鼻でフッと嗤うと「ああ、皮肉な話じゃねえか。本来の目的は未だ果たせていないままだ」と寂しそうにひび割れた液晶の画面を見つめた。
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