第十章 願い

9/19
前へ
/194ページ
次へ
 ドスン。  誰かとぶつかった。 「ご、ごめんなさい」  慌てて頭を下げる。  考え事をしながら歩いていて、前を見ていなかった。  いや、それとも意識が一瞬跳んでいたのか…。  そもそも私、何を考えていたんだっけ…。  うたた寝から覚めたようで、記憶がはっきりしない。  えーと…。何だっけ…。  そうだ、思い出した。  三笠君に、彼女がいるらしい事が分って、落ち込んでたんだっけ。  ああ、思い出すんじゃなかった。胸が痛くなる。  気を取り直して、再び歩き出す。  そりゃあね、私だって。三笠君と親しくなった自分を夢見ることだってあるよ。  おしゃべりしたり、映画みたり、遊園地いったり。  壁ドンされたり、背伸びしてキスしたり。  空想のなかではね。  でも、現実には三笠君と何の話をすれば良いのも、見当がつかないでいる。  はぁ…。溜息がこぼれ出る。まるで、体中が溜息で埋め尽くされてるみたいだ。  彼女さんが居るのを承知で告白すべきか。  それとも、思いを胸の中にしまったまま、消え去るべきか。  何度目かの堂々巡りを繰り返す。  ふと気が付くと、私は横断歩道の前に立っていた。  あっ。また考え事してて前後不覚になっていた。  私の斜め前にいた猫が歩き始めた。  私も、その猫につられて、足を踏み出す。
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加