第十章 願い

10/19
前へ
/194ページ
次へ
 パッパッー。けたたましい警笛。キキーッというタイヤの悲鳴。ガッシャーンと何かが 倒れる音。  三つの事が同時に起こった。  音の方向を見ると、自転車に乗ったまま、横断歩道に横たわっている三笠君が居た。 「馬鹿野郎。どこ見て歩ってるんだ」   三笠君の数十センチ手前で止まった自動車から、罵声が聞こえる。  横断歩道の先の信号を見ると赤だ。三笠君、信号無視をしたらしい。 「す、すみません」  三笠君が、体を摩りながら立ち上がり、自動車の方に頭を下げる。  ああ、良かった。怪我はしていないようだ。  三笠君を撥ねそこなった自動車が、轟音を立てて走り去っていく。 「三笠君、大丈夫?」  歩道に戻った三笠君に声をかける。 「うん。どうやらね…。それに、ネコモリサマも無事なようだ」 「?」  三笠君の視線の先を追うと、私の隣で猫が腰を抜かしていた。  太い体の白黒のブチ猫。黒い顔で、鼻の下の部分だけ白くて口髭みたいだ。
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加