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「あなたも、災難だったね」
私が猫を抱き上げようとすると、髭の猫は腰を抜かしたまま、前足を伸ばして暴れている。
よく見ると、地面にドラ焼きが落ちていた。
「これ、あなたのなの?」
ドラ焼きを拾い上げ、猫の目の前にかざすと、
―それは、儂のじゃ―
と言わんばかりにドラ焼きをひったくって、前足で抱え込んだ。
「食い意地が張ってるのね、ネコモリサマ」
ネコモリサマ?
あれ? 私、この猫の名前を知ってる。なんでかしら?
そう思う間もなく、髭の猫はドラ焼きを口に咥えて、どこかに走り去った。
何なのよ、もう。イーっだ。
ネコモリサマに向かって、鼻のシワを造ってみせる。
「どうやら、これで上手くいったね」三笠君が声をかけてくる。
「上手く…? いった…? あの…いったい何の話ですか?」
「覚えてない? 猫になった翠ちゃんを人間に戻す話さ」
猫になった翠?
翠………、猫………、ネコモリサマ………。
…………………。
そうだ、思い出した。猫になった翠を人間に戻すために、過去にやってきたんだっけ。
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