第十章 願い

16/19
前へ
/194ページ
次へ
 でも、夢じゃないんだ。私と三笠君はお互いに同じ思いを持っているんだ。  明日から私達は友達以上の関係で居られるんだ。明日も、あさっても、その後も。  そのとき私は、大変な事実に気がついた。 「大変だ。どうしよう」  思わず不安の声を漏らす。 「どうしたの。濱野さん?」 「私、大変な事に気がついたの。私達が、元の世界に戻ったら、私達の記憶はどうなるん だろう」 「そうか…。翠ちゃんは人間のままだから、ネコモリサマを捜す事もない。隠れ家に行く 事も、時間を遡る事もない。全部、無かったことになる」 「私達がお互いの胸の内を確かめあった事も無かったことになる…」 「元に戻ったら、みんな忘れちゃう…って事か…」三笠君が唇を噛み締める。 「そ、そんなの嫌だ。私達、折角お互いの気持ちを確かめ合ったのに…。それに、もしも 元の自分に戻ったら、とても三笠君に告白する勇気なんか無い」 「僕も、同じかも…しれない」 「そんなの嫌だ。お互いに好き合って居るのに、このままだと、両片思いで告白できない まま、離ればなれになっちゃう。どうしよう?」  胸が痛くなってくる。  二人とも、みんな忘れてしまう。忘れた事すら、忘れてしまう。  嫌だ、嫌だ。そんなの。
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加