第十章 願い

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 視界が塞がれた事で、唇の感触がより鮮明なものになる。  自分の唇なのか三笠君の唇なのか、区別がつかない。  頭がぼーっとなり、足の力が抜ける。  縋り付くように、三笠君の背中に腕を回す。  三笠君も私の背中に腕を回す。  互いの体が密着する。  体温が通い合う。呼吸が同期する。心臓の鼓動を感じ合う。  私と三笠君は、いま一つなんだ。  二人で、一つの体を共有しているように感じる。  二人を取り巻く世界が、私達の接している一点に溶け込んで行くように感じる。  時間さえもが、私達二人と一体の物になろうとしている。  私の感覚も心も、全てが時空の中に溶け込んで、私は光り輝く点になっていく。
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