第十一章 サイカイ

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 昨日、つまらない事で、翠と喧嘩をした。  昨日は私の虫の居所が悪かった。  大好きだった人に彼女が居ることが分かって、悲しみと後悔の森に迷い込んでいた。  そして、その不安な心を、私は翠にぶつけてしまった。  翠なんか居ないほうがいい。  私は、残酷な言葉の刃で、翠を切り付けた。  夜になって、翠が私の部屋を訪れ、家を出て行くと告げた。  その言葉が気になって、私は眠れなかった。  皆が寝静まったころ、私は翠の部屋の前に立ち、 『ごめん 翠 お姉ちゃんが悪かった どこにも行かないで』  と書いたノートの切れ端を、ドアの隙間から差し込んだ。  あのメモを、翠はちゃんと読んでくれただろうか。  朝の光を浴びながら、ベッド上で上半身だけ起き上がる。  そのまま、翠の部屋に聞き耳を立てる。  静かだ。  翠が、起きて来た時に謝ろう。  そう決めて、隣の部屋の様子を伺う。  けれど、いくら待っても、隣の部屋からはコトリとも音がしない。  いつしか、時計の針は七時を回り、両親が起きだす気配がする。  私はベッドから立ち上がる。  フローリングの冷たさが、体を貫く。  音を立てねように気をつけながら、自室のドアを開ける。  ガサリ。  足元で音がした。見ると、ドアの下に何か挟まっている。  見覚えのあるノートの切れ端だ。  拾い上げてみる。
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