第十一章 サイカイ

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「お姉ちゃん。私ね、小さい頃に、自分がお姉ちゃんの妹じゃないかもしれないと思って 凄く怖かった事があったの」 「…」 「お姉ちゃんの名前は美寿穂でしょ、お母さんは詩寿穂。二人とも名前に穂の字が入って いる。咲穂里お姉ちゃんもそうだし、咲穂里お姉ちゃんのお母さんも、歌寿穂おばさん。 でも、私だけが、名前に穂の字が使われてなくて…」 「…」 「それで、私は本当は貰われっ子なんじゃないかと思ったの。その事を考えると、とても 悲しくて苦しくて…。夜も眠れないくらいに悩んだ…」 「…」 「それで、あるとき、お母さんに尋ねたの。どうして私だけが、名前に穂の字を使われて ないのかって」 「…そうしたら?」 「私がお母さんのお腹の中にいるときに、お姉ちゃんがこう言ったんだって『私は翡翠の 緑色が好きだから、妹が生まれたらミドリって名前にして欲しい。そうしたら、妹の事を 一生好きでいられる』って」  ああ、思い出した。すっかり忘れてたけど、たしかに私は、妹が生まれたらミドリって 名前にして欲しいと、お母さんに頼んだんだ。 「私、その話を聞いてとても嬉しかった。私、お姉ちゃんの妹なんだ。お姉ちゃんの妹に 生まれて良かった。そう思ったの」  ああ翠。  私は再び翠を強く抱きしめる。  もう、二度と翠を離すまいと心に誓う。  涼やかな風が公園を吹き抜け、私と翠の再会を優しく祝福してくれていた。
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