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「お姉ちゃん。私ね、小さい頃に、自分がお姉ちゃんの妹じゃないかもしれないと思って
凄く怖かった事があったの」
「…」
「お姉ちゃんの名前は美寿穂でしょ、お母さんは詩寿穂。二人とも名前に穂の字が入って
いる。咲穂里お姉ちゃんもそうだし、咲穂里お姉ちゃんのお母さんも、歌寿穂おばさん。
でも、私だけが、名前に穂の字が使われてなくて…」
「…」
「それで、私は本当は貰われっ子なんじゃないかと思ったの。その事を考えると、とても
悲しくて苦しくて…。夜も眠れないくらいに悩んだ…」
「…」
「それで、あるとき、お母さんに尋ねたの。どうして私だけが、名前に穂の字を使われて
ないのかって」
「…そうしたら?」
「私がお母さんのお腹の中にいるときに、お姉ちゃんがこう言ったんだって『私は翡翠の
緑色が好きだから、妹が生まれたらミドリって名前にして欲しい。そうしたら、妹の事を
一生好きでいられる』って」
ああ、思い出した。すっかり忘れてたけど、たしかに私は、妹が生まれたらミドリって
名前にして欲しいと、お母さんに頼んだんだ。
「私、その話を聞いてとても嬉しかった。私、お姉ちゃんの妹なんだ。お姉ちゃんの妹に
生まれて良かった。そう思ったの」
ああ翠。
私は再び翠を強く抱きしめる。
もう、二度と翠を離すまいと心に誓う。
涼やかな風が公園を吹き抜け、私と翠の再会を優しく祝福してくれていた。
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