第十一章 サイカイ

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「あの。こちらの方は」  私達の様子を辛抱強く見守っていた三笠君の存在に、お母さんも漸く気付いたようだ。 「クラスメートの三笠君。翠を見つけて、ここまで送ってくれたの」 「それは、ありがとうございます。何と御礼を言って良いやら。本当にありがとうござい ます」 「いえ、どういたしまして」  と、二人でお辞儀を繰り返した。  何度かの社交辞令を繰り返したのち、私達親子は家に帰る事になった。  私達は三笠君に頭を下げ、公園の出口に向かって歩き出す。  私も三笠君に会釈して、お母さん達に続く。 「濱野さん。ちょっと」  三笠君に呼び止められた。  私は、お母さんたちと別れ、三笠君の元へ引き返す。 「何…ですか?」と三笠君の前であらたまる。 「そのぉ…。まだ、思い出さないかな?」  思い出す? いったい何をおもいだすというのだ。  私が怪訝な顔を作る。  それを見て、三笠君は一瞬考えてから、右手の人差し指の腹を自分の唇にあてて みせる。  ん?  なんのサイン?  三笠君は謎の微笑を湛えたままで、私を見つめている。  ひょっとして、私も同じようにしろってこと?  そう考えて、人差し指の腹を唇に当ててみる。
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