第二章 ハジマリ

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「す、すみません」  目に涙が滲む。その滴が零れるのを、懸命にこらえながら頭を下げる。  惨めだ。  よく見ると、私の尻餅に巻き込まれたのか、さっきの猫が大の字なって伸びている。    私を撥ねそこなった自動車が、轟音を立てて走り去っていく。  腰を抜かしたままの私と猫が、その自動車を見送る。  太った白黒のブチ猫。黒い顔で、鼻の下の部分だけ白くなっているのが、口髭みたいで 偉そうだ。 「あんたも、災難だったね」  私は尻餅のまま猫を抱き上げる。  そのまま、立ち上がろうとすると、その猫は地面に手を伸ばして、何やら暴れている。  よく見ると、地面にドラ焼きが落ちていた。 「これ、あんたのなの?」  ドラ焼きを拾い上げ、猫の目の前にかざすと、 ―それは、俺のだ―  と言わんばかりにドラ焼きをひったくって、前足で抱え込んだ。 「あんた、ド〇え〇ん?」  そう言いながら、猫を地面に下すと、ドラ焼きを口に咥えて、どこかに走り去った。  何なのよ、もう。イーっだ。  特に恨みがあるわけではないが、猫に向かって、鼻のシワを造ってみせる。
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