第三章 姉妹

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 思えば。私は人前で怒ることはあまりない。ましてや、翠に対して怒ったことなど殆ど ない。だから、翠は私の怒りの沸騰点を、見誤っていた。  それに、気圧が違えば沸騰点が上下するように、私の怒りの沸騰点も、今日に限っては 違っていた。  普段の気の優しい私しか知らない翠は、知らぬ間に超えてはならぬ一線を越えていた。 「ちゃんと。謝れ!」  私の怒声が、家中に響き渡る。  翠が、ビックリした顔で私を見る。 「どうしたの。お姉ちゃん。なんか、変だよ」  私は怒りの形相で翠を睨み返す。  それに恐れをなしたのか、翠が引きつった笑いで 「まさか…。失恋したとか…。ハハッ」  と返す。  翠としては、軽いジョークで笑いを誘ったつもりだろうが、火に油だった。 「うるさい! あんたに…私の…なにが分かるっていうの…」  失恋という言葉が、私の理性を支えていた(たが)を外した。
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