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思えば。私は人前で怒ることはあまりない。ましてや、翠に対して怒ったことなど殆ど
ない。だから、翠は私の怒りの沸騰点を、見誤っていた。
それに、気圧が違えば沸騰点が上下するように、私の怒りの沸騰点も、今日に限っては
違っていた。
普段の気の優しい私しか知らない翠は、知らぬ間に超えてはならぬ一線を越えていた。
「ちゃんと。謝れ!」
私の怒声が、家中に響き渡る。
翠が、ビックリした顔で私を見る。
「どうしたの。お姉ちゃん。なんか、変だよ」
私は怒りの形相で翠を睨み返す。
それに恐れをなしたのか、翠が引きつった笑いで
「まさか…。失恋したとか…。ハハッ」
と返す。
翠としては、軽いジョークで笑いを誘ったつもりだろうが、火に油だった。
「うるさい! あんたに…私の…なにが分かるっていうの…」
失恋という言葉が、私の理性を支えていた箍を外した。
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