第三章 姉妹

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 私のなかで、一年かけて大事に育てた恋心。  もうすぐ芽吹くかもしれないその時に、だれの目にも触れずに散って行った。  儚く悲しい失恋体験だったけど、私にとってはこの上なく愛しい思い出。  たとえ妹であっても、話のついでに語られてよいものではない。  私の尋常ではない顔色で、事の重大さに気づいたのか、翠が目にいっぱい涙を湛えて、 私の腕に縋り付く。 「お姉ちゃん、ごめんなさい。…私、そんなつもりじゃ」  取りついた翠の手を、私は無下に払いのけ、 「じゃぁ、なんのつもり!」  と追い打ちをかける。  翠が返事に窮して、今にも泣きだしそうな顔で私を見つめる。  けれど、私には、その表情が抗議の意思表示に見えてしまう。 「何よ、その目は。文句があるなら言いなさいよ」 「違う…、違うよ。お姉ちゃん…」  翠の頬を涙が伝う。 「泣いたら、それで済むと思ってるの。翠はいっつもそうやって逃げるんだ」  自分の言葉に興奮して、怒りの歯止めが利かなくなる。  興奮で、首の血管が破裂しそうだ。 「お姉ちゃん…」  助けを求めるように、翠が私に腕を伸ばす。  その手をピシャリと打ち返す。 「あんたなんか大嫌いだ。翠なんて居ない方がいい」  その言葉が、翠の限界点だったのだろう。  翠の顔が大きく歪み、うわーん、とまるで幼子のように、大きな声で泣き出した。  翠の目から、大粒の涙が止めどなくあふれ出る。
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