第四章 オンガエシ

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 そうだ。  翠に猫になって貰おう。  それなら、私たち喧嘩しなくて、仲良くできる。  翠だって、いっぱい私に甘えられて、うれしい筈だよ。  私も、翠のこと沢山可愛がれるし。  それがいい。 「ネコさん、ネコさん。願い事が決まりました」 「はいよ。どっこらしょ」  と髭猫が大儀そうに起き上がって姿勢を正す。  といっても、猫座りだけど。 「私の妹の翠を、猫にしてくださーい」  軽やかに願い事を唱える。 「妹を…猫にね…。そりゃ、あんまり感心はせんの…」 「えっ」 「本とにそれで良いんじゃな?」  念を押されて、ちょっと後ろめたい気持ちが湧いてきた。  だけど、どうせ夢なんだからと思い直し。 「それで、お願いします」  と元気よく答えた。 「それなら…」  その言葉を残して、髭猫は目の前から消え去った。  まるで黒板消しで、黒板に書かれた文字が消えるように。 「あれ? 願い事は…」  猫の居なくなった部屋はいつもの私の部屋。  電灯の豆球の明かりだけの薄暗い部屋。  あれ、もう夢から覚めた?  なんだ、つまんないの。  と思っていたら、私の部屋が白っちゃけてきた。  暗い部屋がすべて灰色に変わる。  ベッド、壁、勉強机、カワセミのポスターやぬいぐるみ。  すべての物の色が灰色。そして白へと変わっていく。  そして、私の意識さえも…。  なに。なにが起こってるの…。  その疑問も…     やがて…        白い闇の中に…           掻き消え…
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