第五章 三笠くん

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 全てを思い出した。  胸の辺りが苦しく冷たい。心臓が氷の刃で貫かれたように痛む。  私は、何て事をしたのだろう。なんという事を願ってしまったのだろう。  止めどなく涙が流れる。私は、机に突っ伏して泣き続ける。  机の上に、涙の滴が溜まっていく。 ―お姉ちゃん―  そう、呼ばれた気がした。  顔を上げると、ノートに書いた翠への伝言が目に入った。 『ごめん 翠 お姉ちゃんが悪かった どこにも行かないで』  そうだ、泣いている場合じゃない。  翠を人間に戻さないと。  すぐに、お母さんにこの事を伝えよう。  椅子から立ち上がり、部屋のドアに手をかけた。  そこで、私は体の動きを止める。  だめだ、だめだ。  さっき、お母さん達と翠の話をしていて、私はいつの間にか翠のことを忘れていた。  猫のミドリが現実と思っている人に接すると、その影響を受けて、私も翠の事を忘れて しまうのに違いない。  翠の事は、私独りで解決しなくてはいけないんだ。
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