***(大切な宝物)***

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   ***  一晩ぐっすり眠っただけで、怪我は全快した。  首を振っても大きく口を開けても、もう痛みはない。まあ、怪我って言っても、一発殴られただけだし、位置がちょうど顎のあたりだったんで揺らされて一瞬くらっとしただけだろうから、もともとそんな大事じゃなかったってことだろうけど。  ただ、やっぱり先輩は気にしてくれていたのだろう。いつもより荷物運びからセッティングまで、あらゆる作業に精を出し、おれの負担を減らしてくれた。  嬉しいけど、ちょっと心苦しい。  別に煽るつもりでやったことじゃないけど、先輩の大事な瑞希さんを抱きしめていたのは確かなんだから。っていうか、瑞希さんを抱きしめるっていうのは、なんか超美人のお姉さんを抱きしめてるみたいで、それはそれなりに倖せなわけだし。  なんてことを考えてるから、変な誤解をされちゃうんだろうけど。  まあ、それでも雨降って地固まる、みたいに、とりあえず今はいろんなことが収まるべきところに収まったっていう感じがする。  ってのだけでも、良しとしていいんじゃないだろうか。  おれはいつもどおり照明を吊るす先輩の手伝いを早々に終えると、舞台脇にスピーカーを設置している碧生の元へと走った。 「調子はどうだ? 今日の学校、結構人数いそうだけど」  初日からずっと比較的小規模の学校が多かった中、今日は碧生にとっての初めてのマンモス校。生徒の人数も〇が一桁多い。おかげで午前と午後にわけての二回公演だ。  声をかけると、碧生は少しだけ考えるように首を傾げ、でもはっきりと首を振った。 「大丈夫。どっちかっていうとわくわくしてるから」 「だよな。おれも」  目を合わせ、にこりと笑い合う。  二人で向かう銀河鉄道の旅は、やっぱり楽しくて倖せで、わくわくするんだ。
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