***(懐かしい記憶)***

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 透き通るほどに透明で真っ直ぐな少年。  おれの理想のカムパネルラ。  本当に、そうなんだけど。  だけど。  何故だろう。  そう感じれば感じるほど、おれの中でモヤモヤと何かよくわからないものがこみあげてくるのが、気持ち悪くて仕方ない。  賢治は過去にカムパネルラを演じたことがある。でも、いつ、どこでやったのかという話になると、うまくかわして話題をそらし、決して教えてはくれない。  教えてくれないんだったら、もっと追求すればいいじゃないかと思うかもしれないけど、そうもいかない。  何故ならおれは怖いんだ。  賢治があまりにあいつに似ているから。  あいつ。  橘碧生(たちばな あおい)に。  橘碧生。それはおれの中学時代の同級生の名前だ。  といっても碧生は二年生の終わりには転校して他の学校へ行ってしまい、高校も別だったので、ともに過ごしたのはたったの二年間だけ。しかもクラスも違ったので、正確には同級ですらない。  おれ達が顔を合わせていたのは、もっぱら演劇部の部室のみだ。  そうなんだ。子供の頃から芝居が好きだったおれは、中学生の頃から当たり前のように演劇部に所属していて、碧生もその同じ演劇部の部員だったんだ。  たった二年。しかも部活動の最中だけの繋がりだったけど、おれにとっての碧生はちょっと特別な相手だった。
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