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もう一回顔をあげて、今度ははっきりと碧生を見上げると、碧生はまだ頬を紅潮させたままギュッと唇を噛んでいた。でも、その表情に怒りの影は見えない。おれが勢いよく立ち上がると、碧生は一瞬だけベッドの上で後ずさった。
「ごめん…じゃない」
「……え?」
「だっておれ、お前のこと忘れてなんかいないし」
「…………」
碧生がその大きな瞳でじっとおれを見つめた。
「忘れてたことなんか一日もない」
「だったら…なんで」
碧生の目がおれを睨みつける。今度は確実に怒りの目だ。
「爽平、稽古場で久しぶりに会った時、なんて言ったか覚えてる?」
「稽古場で……?」
「君、ぼくに向かって初めましてって言ったんだ」
「…………」
言った……んだろうか。よく覚えてない。
あの時は、かなり頭の中がパニクってて。でも。言った……ような…気もする……かもしれない。
「言ったんだよ。しかもその後も初コンビだとか、慣れるまで時間かかるかも、とか。それって完全にぼくのこと忘れてるパターンだろ」
「だから、忘れてなんかないって」
「じゃあ、どうして」
「それは……怖かったからだよ!」
「……?」
何を言ってるんだこいつは、といったふうに碧生の眉が寄せられた。
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