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***(懐かしい記憶)***
おれ達が行くはずだった茨城での公演は、ダッシュで戻ってきてくれたC班が代行してくれたので、B班のメンバーは新しいカムパネルラを迎え、すぐに本格的な稽古を開始することが出来た。
最高の人材を見つけてきてやったぞ。
そう代表が宣言したとおり、確かに賢治はとてもいい人材だった。
賢治は以前この『銀河鉄道の夜』を舞台で演じたことがあったらしく、原作にある台詞はすでにほとんど覚えていたし、うちのシナリオ独自の場面や台詞もさほど苦労せずにすんなり頭に入ったみたいで、本読みもそこそこにすぐ立ち稽古にはいれたからだ。
覚えも早く、機転も利く。
そしてなにより演技が素晴らしい。
小学生相手の芝居なんて、適当に大げさにやればいいんだから、そんな難しく考えることないんじゃないか、なんて思われることも多いが、おれは逆だと思ってる。
子供相手の芝居だからこそ手は抜けない。嘘はつけない。
表面だけで芝居をしたら子供達はすぐに見抜く。子供は大人よりも本当を見抜く力は高いんじゃないだろうか。そう思うんだ。
そしてこれはおれだけじゃなく、劇団員全員の考えだから、もちろん代表も座長もみんなにそれだけのレベルの芝居を要求してくる。
そんな中、賢治のカムパネルラはそれらの高いハードルなぞ、なんのそのといった感じでやすやすと超えてしまうくらいに良い出来だった。
しかも賢治の醸し出す雰囲気は、代表のイメージするカムパネルラにも近く、おれ達B班の中でのバランスもちょうどいい感じで、代表は最初の一日だけざっと見てくれた後、これなら何の問題もないなと言って、さっさとA班の様子を見に九州へと飛んで行ってしまった。
ま、それだけおれ達も含め、みんなが信頼されている証拠なんだろうけど。
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