屋形船(やかたぶね)

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日も暮れて肌寒く、真っ暗なはずの伊通川が装飾に彩られた街あかりで、浮かび上がった。太陽はとうの昔に沈んでいる。 なんで、嫌われたんだろう。 僕はちっとも悪いことはしていないと思っていたのに。 何がいけなかったんだろう。 帰り道を忙しく歩く人の往来は激しさを増し、嫌な足音や人声だって自然に、耳に入ってきた。 本来なら彼女と座るはずだった川沿いの長椅子の端の方に、ひとり腰掛けて鞄をそばに置くと、ちょうど立屋大橋の橋の下をくぐってきた宴会用の屋形船が目に入った。 電飾灯で飾られた舟は、美しくひかりを川面に映しながらゆっくりゆっくりと流れてきた。 くだらないねぇ。早く通り過ぎてくれないかな。 空を飛ぶコウモリ達。その遥か向こう、母の目のような月のひかり。
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