屋形船(やかたぶね)

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ここから見える屋形船から僕までの距離と、屋形船からさらに高いそらに映る月までの距離が目測では同じ長さなのに、本当の世界では比べものにならないくらいの違いがある。 そんな当たり前の事が頭をよぎると、それは心が止まっている証拠だ、駄目だ、駄目だと立ち上がり、川の欄干に肘を掛けて少し川に近づいた。頬に微風が感じられる。実は座っているより、この姿勢の方がよっぽど楽だった。 後ろの方では、舟のイルミネーションに心が浮き立ったのか、闇のなかで恋人たちの声が弾け飛んでいた。 どうせ時は流れるんだ。僕と同じ末路を辿ればいいのに。 それは今の自分の本心だった。 ひとりになるのは好き。ひとりにされるのは嫌い。 そんな身勝手な自分の末路が、今の状況なんだろう、きっと。 雑多な騒音の中で、犬の鳴き声がした、と思った。咄嗟に振り返った。
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