屋形船(やかたぶね)

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「ようオマエ、何ぼーっとしてんだよ。川に死体でも浮いてんのか、ははっ」 聞き慣れた声だった。会社の先輩のあかねさんだった。 あかねさんとは、帰り道が一緒なので、この道で会うことがよくあった。 僕と同じように欄干に手を付くと、あかねさんは言った。 「ああ、楽しいことばっかなんだよなぁ、この世の中ってね」 あからさまに誇張的だったので、僕は逆の方で捉えた。 そうだった、あかねさん最近確か離婚したんだった。 元気出して、と言おうと思った矢先、 「カラ元気しかでんわ」とあかねさん。 「でも、いま付き合っている彼氏いるんですよね」 「別れた」 「え?」 「フラれた」 「旦那さんとも?」 「別れた」 静かに屋形船は目の前を通り過ぎる。
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