屋形船(やかたぶね)

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「帰るわ」と僕に背を向けた。 「ダブルパンチ、ですね」 僕は先輩の返し笑いを誘ったが、それにちゃんと答えてくれる愛すべき先輩である。 いきなり、くるっとこちらに向き直り、両手を開いて肩をすくめて、 「どうしよっかなぁ~って、カハッ」 僕は吹き出し、笑った。あかねさんも笑って、川の屋形船を指差して、 「見給え。うつくしい舟が通り過ぎていってしまうではないか!じゃあな!」 と後ろ手に合図して行ってしまった。 いつも面白い人だなぁ、でもきっと夜は、なみだのひとり酒なんだろうな。 その姿を想像すると切なかったが、僕もひとりじゃないんだと思わせてくれたのだった。
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