1人が本棚に入れています
本棚に追加
それから先輩からのLINEも切れず、喜ぶ私に例の不審者は何故か不機嫌そうにしていた。そして土曜の夜を迎える。今夜はサークルの飲み会だ。あっという間に時間は過ぎて、殆どの人が二次会まで流れた。私は歩いて帰れる距離だったし、当然参加。
ポツポツと雨が降り始めたのも構わず移動していると、
「みまりー」
ポン、と肩を叩かれた。
「柳内先輩!」
「今日、ずっと話したかったのに、席遠かったねぇ」
先輩の言葉に心臓が大きく跳ねる。
あはは、と子供みたく笑う先輩は、確実に酔っている。
何より、下の名前で呼ばれたのなんか初めてで。
流れで席まで隣になり、
「みまりは、飲まないの?」
「飲まないですよ、19ですから」
「ちぇー」
終始こんな感じの先輩に、他の先輩たちが煽りに煽る。それもヘラヘラかわす先輩に感心しつつも、夢のような状況に段々気分がほわほわとして--だから、油断してたんだ。
気づけば二次会も終わっていた。もう零時を回っていて雨足は強まっていた。私は一人、家の方面に向かいしばらくしたところで、冷たく腕を引かれた。
「やない、せんぱい?」
さっきまでの酔った雰囲気とは変わって、いつも通りの綺麗な笑みを浮かべた先輩が立っていた。
何故か、無性に怖い。
「このまま帰るの?」
「え、」
グッと握る力が強まる。
あ、ヤバい。そう直感した。
ほわほわした気持ちが一気に冷めて、私の理性も感情も叫んでいた。
逃げて、今すぐ。
痛いほど掴まれた腕が、それを許さない。
「ね? ミマリもそう思ってる」
言葉の響き方が、違う。何か、人をぞっとさせる、
悪魔のような……。
「や、離して」
やだ、たすけて。
お願い、カミサマ……!
雷鳴が轟いた。
天からの怒槌が落ちた、そう感じさせるような。
「また、貴様がそれに触れるか、ケガレのついた獣」
最初のコメントを投稿しよう!