手鏡

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「好きだな、って改めて思っちゃった」 この前まであんなに遠かった先輩と今やLINEまでしている。 「ねえ、聞いてんの?」 家に帰ると、例の不審者が毎日家でくつろいでいる。明らかに不自然なのに、もう彼は私の部屋に馴染んでしまっている。 彼は、無言のまま私を冷たい表情で見ていた。そんなに私に興味ない? と思った瞬間に、何かが胸をひりっと掠めた。 え、今のは何。 「ああ、聞いてた」 「何か反応してよ! どうせ痛い女、とか思ってたんでしょ」 「いや、」 そこで不自然に言葉を切ると、彼は何かを躊躇するように眉間にしわを寄せた。やがて、 「その男は、気に食わん」 「……ハァっ!?」 いや、あなたに何の権限があって。 「何でアンタに否定されなきゃいけないのよ!」 そう尋ねても、帰ってきたのは沈黙。 「会ったこともないくせに! 何が気に食わないの、」 言い終わらないうちに、彼は私の背後にある壁にバンと手を突くと、綺麗な顔が至近距離で迫ってきた。射るような黒眼から、絶望的に逃れられない。耳元に彼の口が寄せられ、 「すべて、だ」 有無を言わさぬ凄みのある雰囲気。背中から腰のあたりがゾクりとする。これは怯えによるもの、なのだろうか。しばらく時が止まったように二人とも動かず、お互いの呼吸音だけが部屋に響く。 やがて彼はするりと流れるように立ち上がると、振り返らずに外へ出て行った。気が抜けた私は、へたり込んでしまう。 脱力しきった身体の中で、甘い鼓動だけがドクドクと動いている。 私は、しばらく先輩からのLINEを開くことさえ、出来なかった。
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