手鏡

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低く、確かに聞き覚えのある声。 「誰かと思えばあの時の雷神サマか」 馬鹿にしたような声で答える先輩、いや。 「確かあの時は、二代上だったか? 人間の為に、最下級まで神格下げてたなんて、愚の骨頂もイイトコだナァ?」 最早私の知ってる先輩じゃない。 「今すぐ消えろ、さもなくば、」 「また禁忌に反する? さすればもう下げる格も無いお前も、消えるまでよ」 話の内容はさっぱりだ、けれど。 カミサマは、怒りを滾らせた眼をしていたけれど、恐ろしく表情は静かで。 私は初めて、「畏れ」を抱いた。 「……往ね」 先輩だったモノは、厳かに彼が発した言葉に目を剥いた。 次の瞬間、蒼の炎がソレの身体を焼き始めて、生涯忘れられない断末魔の叫びが耳元でグワンと反響して……私は地面にへたり込んだ。 雨が降りしきる。 「だから高望みだと言ったんだ。俺に仕えていた家の娘に手を出すなんざ」 彼は、悲しげに微笑んでいた。 「どうして、」 そんな、お別れ前みたいな。 まだ、何も話せてないのに。 「祖母にそっくりだな、お前は」 禁忌、ってどういうこと。 あなたは付喪神、なんじゃなかったの。 「黙ってて、悪かった」 今、ぎゅっと締めつけられるこの想いの、行き場は? 「い、行かないで」 一週間しか過ごしてない、まともな会話もしてない。 けど、魂が呼応してる。 あなたは、何者? 「信じるから。祈るから、あなたの為……だから、消えないで」 溢れる雫に私の目は瞬く。 「天の御心次第、だ」 その一瞬で、彼は降りしきる雨の中、忽然と消えた。
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