手鏡

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大学二年生、六月。 雨が滝のように降る窓の外を眺めて、欠伸を噛み殺しながら講義を聞き流していた。毎日気候が不安定なのに加えて、公演一か月前に迫った演劇サークルが毎晩のように入っていて、身体がしんどくてたまらない。 講義の終わりまであと15分。 「でもちょっと、もー、無理だぁ……」 心の中で呟きながら、私はぷつりと意識を手放した。 「みまり、起きなよ」 「ん、」 隣で同じ講義を受けていた京子の声に起こされる。慌ただしく席を立つ音が響いていた。たった15分なのに夢を見たということは熟睡していたのだろう。 「ノートは?」 「殆ど進んでない。ホント、眠いよねぇ、この講義」 梅雨の湿気に負けない京子の艶やかな黒髪も不満げに揺れる。 「ていうか、あっつい。雨で、暑くて、じめついてて、眠いって、何重苦」 「本当にね」 愚痴をもらしながら机の上を片付け、サークルの作業場へと向かう。 私と京子は二人とも大道具セクションに属していて、名前通り次の公演に使う大道具類を作成する。新歓の時はまさかこの子が大道具セクションに来るとは思わなかった。これ程の美貌を誇るのだから、てっきり役者志望だろうなと思っていたし、先輩達も是非役者へ! と猛プッシュしていたにも関わらず、彼女は裏方に属した。 「誰かになりきるって、何かあんまり魅力を感じないのよね。 私は、私でいたくない?」 以前問いかけた時に、彼女はあっさりとした態度で即答した。 変に目立ちたくないとかいう理由じゃないんだなぁ、と拍子抜けしたのを覚えている。
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