トイレの神様?

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 そう、腹痛をも伴う便意が私を襲ったのだ。  私は猛ダッシュでトイレのドアを開け、便座へと―― 「あ、開かない!!?」 「入ってるよ」 「馬鹿! お、おま! さっさと出て! 早く!」  その時の私は正気ではなかった。  なぜなら肛門へと向かう悪意の塊が理解できていたからだ。  その塊はもう間もなく、外に解き放たれるであろう。  地獄が、顕現しようとしていた。 「大丈夫だよ」 「大丈夫じゃないよ! 洩れるっつってんだよ! この馬鹿! 馬鹿!!」 「扉越しとはいえ神様に馬鹿って言わないでよ……」 「誰が神だこの馬鹿! お前が神なら私の便を消して見せろこの馬鹿! 漏らす! も」 「あ……」  便意がなくなり、腹痛が消えた。  そう。  悪意の塊が、解放されたのであろう。  すっかりその感覚は体から消え去り、妙な虚無感が私を包んでいた。  どれだけその場に留まっていたろうか。  掃除をしなければと思って立ち上がると、不思議なことに地獄は顕現していない。  しかし腹はすっきりしていて、妙に解放感がある。 「あれ?」  どこにも異常はなく、異臭もない。  トイレの扉は開いていて、誰かがいた形跡もない。  そもそも私は一人暮らしだ。 「……まさか、なぁ」  まぁ、ともあれ。  漏らさなくて良かったなぁとは思った。  神様だろうがそうでなかろうが、悪意を消してくれてありがとさん。  トイレの芳香剤が優しく香る、昼頃の話であった。
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