裏町事件簿

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長い入署式も終わりに差し掛かり、残りは配属任命式のみとなった。 はじめはキャリア組の任命から行われている。 高卒の私は当然最後の方である 刑事課、交通課、庶務課、次々と配属先が任命されて行く。 私は最後の任命となった。 「愛宕 桜、前へ」 ようやく私は呼ばれた。 壇上に上がると、しゃべり疲れた感が半端無い署長が任命書を持って私が来るのを待っている。 よっぽど疲れているのだろう。 ほんのり加齢臭が漂っている… あんなに長い間喋るからだよ… 漂う加齢臭をこらえながら署長の前へ。 「愛宕桜殿。貴殿を裏町特殊出張所勤務とす」 会場がざわつく。 それはそうだろう。 そんな部署聞いたこともない。 裏町とは、狭間市の丁度真ん中に線路が走っており、南側を表町、北側を裏町と別れて居る。 表町は都心のベットタウンで開発がどんどん進んでいる 裏町は昔ながらの町並みで道が碁盤の目の様にはりめぐらされて、京都の街並みに似ていることから、裏京都と呼ばれている。 裏京都と呼ばれても特に観光する場所では無い。 ただ住宅街と一部歓楽街が有るだけで有る。 「あのぉ…そんな部署って有るのでしょうか?」 私は驚いて思わず壇上で署長に話しかけると言う暴挙を… 「まぁ、いいから早く受け取りたまえ」 っと、署長は意味深な笑みを浮かべながら任命書の受け取りを促してきた。 私が席に座ると副署長による締めの言葉がはじまった… 式典は終わり、同期の人達は皆配属先に散らばって行った。 私はというと、所属先はやはり裏町で、表町に有る署からは遠いのでパトカーで送ってくれるとの事。 玄関前ロータリーで送迎を待って居ると、一台のパトカーが停まる。 「桜ちゃんお待たせ」 パトカーから見知った顔の男性が降りて来た。 「あっ、金太郎さん」 その男性は酒田金太郎という。 兄の同級生であり、私にとっても馴染み深い人だ。 狭間警察署の刑事課所属でエースと呼ばれる凄腕刑事だ。 笑い声に特徴がある。 「ガハハ!!ごめんごめん。待ったかい?」 私はリアルにガハハと笑う人は金太郎さん以外出会った事が無い。 「あっ、大丈夫です。宜しくお願いします」 「ガハハ!!こんな風に桜ちゃんと話すとむず痒くなるな~。ガハハ!!」 「じゃあ、向かおうかね。さぁ、乗った乗った」 金太郎が私を助手席に乗るように促し、乗り込むと直ぐに出発した。 道中金太郎と色々話をしたが、ぶっちゃけ金太郎の笑い声しか頭に残っていない… 私はふと気になって居る事を金太郎に聞くことにした。 「金太郎さん…あのぉ…裏町特殊出張所ってどんな所で何をしてる所なんですか?」 すると金太郎の顔が一瞬真剣な表情になったが、 「ガハハ!!行って見ればわかるがなぁ。うちの署長曰く人材の墓場と言っちょるけどな。ガハハ!!」 おっと、衝撃発言頂きました… 人材の墓場って… たまたま合格しただけでやって来たやる気のない私を見抜いてここに配属になったのか… 任命式での署長の笑みの意味がわかった気がした… 「ガハハ!!落ち込まんでも良いがな。住めば都って言うだろ。ガハハ!!」 その後到着迄の間ショックのあまり私はガハハの笑い声の渦から出れなくなった…
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