15 愛した証拠

7/10
前へ
/132ページ
次へ
 なかなか油断を見せない彼に苛立ちと焦りを覚え始めた頃、彼が「そうだ。昨日のことなんだが――」と何か話そうとしたところで、突然、動きと言葉を止めた。  丁度そのときどこからか聞こえ始めた不思議な歌に、気を取られたのかもしれない。  唯一彼が見せたその隙をついて、メリッサは彼の首をシーツで絞め、殺した。  何が起きたのかを把握するのに時間がかかったのかもしれない。最初は、抵抗もしなかった。途中からは流石に必死に暴れだしたが、もう遅い段階からだった。  彼を殺したあと、急いで彼を吊るし、指を切断した。そのとき、急いだがゆえについた返り血をごまかすため、その死体にすがりついて、すすり泣く演技をした。  ――演技のつもりだったのに、不思議と、涙は本当に頬を伝った。  これが、メリッサが語った、今回の事件の真相だった。 「あの人が悪いのよ。私との約束を破って、人魚なんかに気持ちを奪われた、あの人が――」  そう言って俯く彼女に、公爵が天を仰いでいった。 「馬鹿なことを……。メリッサ、本当にお前は、馬鹿なことをした…………」  それに、メリッサが激昂する。 「――何がよ! あの人が約束を破ったのも、人魚に心を奪われたのも、事実でしょう!」 「いいや、お前は何も見えていない。お前には未来を見る目さえも備わっているというのに、本当のところは何も見えていなかったのだ――」     
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加