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なかなか油断を見せない彼に苛立ちと焦りを覚え始めた頃、彼が「そうだ。昨日のことなんだが――」と何か話そうとしたところで、突然、動きと言葉を止めた。
丁度そのときどこからか聞こえ始めた不思議な歌に、気を取られたのかもしれない。
唯一彼が見せたその隙をついて、メリッサは彼の首をシーツで絞め、殺した。
何が起きたのかを把握するのに時間がかかったのかもしれない。最初は、抵抗もしなかった。途中からは流石に必死に暴れだしたが、もう遅い段階からだった。
彼を殺したあと、急いで彼を吊るし、指を切断した。そのとき、急いだがゆえについた返り血をごまかすため、その死体にすがりついて、すすり泣く演技をした。
――演技のつもりだったのに、不思議と、涙は本当に頬を伝った。
これが、メリッサが語った、今回の事件の真相だった。
「あの人が悪いのよ。私との約束を破って、人魚なんかに気持ちを奪われた、あの人が――」
そう言って俯く彼女に、公爵が天を仰いでいった。
「馬鹿なことを……。メリッサ、本当にお前は、馬鹿なことをした…………」
それに、メリッサが激昂する。
「――何がよ! あの人が約束を破ったのも、人魚に心を奪われたのも、事実でしょう!」
「いいや、お前は何も見えていない。お前には未来を見る目さえも備わっているというのに、本当のところは何も見えていなかったのだ――」
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